|賑やかなメモ|
[ 輪郭の滲んだ町 ] 、ホテル、小夜が宿泊していた部屋で発見されたメモ群.発見したのは、私だ.
※メモのタイプが進むことで、それは物語へと反映される.物語の分かりづらかった箇所がメモのタイプによって、小夜のメモによって少しづく明らかにされてゆくのだ.私の作業にかかっているのだ.oy.3346
それは、一つの言語で書かれたものであり、文字に乱れはあるが、共通した筆跡から、すべて小夜によるメモであると思われる.
書かれた期間は、物語の記述によれば、[輪郭の滲んだ町] 、声以降、[ 騒めく部屋 ] への入室直前まで.その期間がどれほどの長さであるのかは物語からは読み取れないが、最後にメモが書かれたのは、小夜が宿泊していた部屋である.
湿った夜の町で書かれたのだろう、すべてのメモはインクが滲み、また湿気に浸された部屋に長い期間放置されていたせいか、(私が部屋に入った時には、部屋は生温かく、空気も止まり、その中でメモは醸成されていたようにも思えた ) .それらのメモは、カビやしみの浸食で劣化も進み、読むことさえできないものがほとんどであった.※色とりどりのカビに覆われ、蝕まれたメモとも、賑やかなメモともいわれる所以である.※いたるところに見られる、黒ずんだしみは小夜の指先から滴った血痕だろうか?私が触れるとじめっとしていた.
部屋中荒らされ、綴り糸も破断され、部屋中に散乱したメモ.それはまるで外部から侵入した何者かによる仕業のようにも思われたが、愛の物語にそのような悪意などあるはずもない.この類の物語に起きがちな、愛の物語特有のハプニングの一つである.
すべてのメモは、べとべとと粘着き、壊れやすそうで、すでに壊れているものも数多くあり、私は、私の生の続く限りにおいて、小夜のメモを可能な限りここに残そうと思うのである.
それは誰かのためというより、私の生における私の義務であるようにも思えるし、私の責任であるようにも思えるし、それは小夜が生きた唯一の証でもある.※私の生が尽きる時、私は小夜に謝罪、
それは気の遠くなるような作業であり、忍耐と根気が要求されるのだ.そのような気違いじみた情熱など、私以外一体誰が持ち得ようか.報酬なき作業でもある.
今この最中においても、カビによる浸食は進行し、カビは私の足元にもまとわりつき始めていた.「離れろ、私は小夜ではない. 」カビは私の足元から、膝を伝い、私の全身へと広がっていた.小夜のメモ同様に、私自身が賑やかな身体となってゆくのだ.
※私の作業は、こうだ.
※小夜のメモの復元ではない.メモを可能な限り、書かれていることをそのまま、手を加えずに、そして、読めないところは読めないままに、その理由を示そう、
カビは、その集落化の速度は遅いとはいえ、しかし確実に、進行、メモを蝕んでいるのである.
部屋は、荒らされている.
私は、ある音を読んだ.その音に導かれてたどり着いたのが、小夜が宿泊していたホテルの部屋だ.
部屋全体が、壁、床、天井、カビで覆われて、集落化の音、
作業は遅々として、進まず.
※小夜のメモは大きく分けるといくつかの種類に分けれれるようである.
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